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「蝙蝠は、こちらの男のほうだったってわけですね」 ばさりと丸木度教授は書類を投げ出した。 殉職した男の名前が一番上に記載されている。 「ほう。 健気にも調べたのかお前」 「ま、ちょっと気にかかったものでね」 丸木度教授はいいながら、もう一つの書類も提出する。試作品が完成したことを伝える文面だった。まだ予定日まで一週間以上もある、後方支援部隊はさぞかし忙しかっただろうと蘭は思った。その間をぬって調べたというのだから教授の顔色の悪さも納得がいく。 蘭は机の上で手を組み、顎をそこに乗せた。 そして丸木戸の持ってきた始めの書類にじっくりと目を通す。 その様子に、彼は片眉を跳ねあげた。 「まさか、知らなかったのですか?」 「……まあな。 だいたい、考えてみろ。 私が直々に育ててやった幹部候補の馬鹿者が、つまらない事をするはずはないだろう?」 ふうと息を吐く。 面倒だから調べなかっただけだ、とぼやいた後に、教授が一週間かけて調べあげたその書類をそのまま横の屑籠に捨てた。読み終わったからだ。 零武隊に裏切り者がいたとなったら、原因その他諸々零にしなければならない。だがこの件に限っていえば、すでに終了していた。裏切っていたのはこの男だけで、裏切らせたのは丁度現朗が壊滅させた一群。そして原因は金。賭博にはまった借金をかたに動いていたが、次第に金をもらうこと事態に目的が移行していたらしい。それだけわかれば十分。むしろこの書類こそあってはならないものだ。 蘭は振り返って窓の外を見る。賑やかな声が聞こえていた。 演習場では模擬戦の訓練をしている。激励や命令が飛び交う中、現朗と激が並んで走っていた。 彼等が向かう先には一本の旗が在る。 激の棒は飛来する弾や矢を弾き飛ばす。現朗は彼の後ろについて、矢を打ち放つ。盾と矛。その攻撃の形は、完全に信頼を寄せている証だ。 敵陣を突破し、旗が二人の手に握られた。終了の合図の空砲が空に打ち上げられる。 わっと上がった喚声が、執務室まで声が届いてきた。 「……可愛い部下にはお優しいこって」 丸木戸が揶揄すると、蘭はつまらなそうな顔をして振り返った。 そして、無言で屑籠を指す。そこにある分厚い書類。彼が現朗のためを思って調べた一週間の結晶。 「お前も人のことが言えた義理か?」 分が悪い、と悟った教授は肩を竦めて返答しなかった。 |
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