鬼子母神編 教授編 狸編 隊員編・1 隊員編・2

      同性愛編 隊員編弐 解決・1 解決・2
 ・・・  懊悩と解決  ・・・ 


 警視総監特製愛の取調室……という名札がついている、正式名称は第六倉庫のそこは、八俣の必要と思う器具のみが揃っている簡素な部屋だった。
 必要な器具。つまり、壁にとりつけられた四肢と首を拘束する鋼の輪とか、鞭とか、そういった世間には絶対みせられないようなやばい代物だ。が、そこの部屋につれられたのは夜盗ではなく、なんと可哀想な二人の休暇中の軍人のほうだったのである。
 勿論のこと。抵抗も攻撃も反撃もしたが、オカマパワーはあなどれずあっさり拘束の輪をはめられて壁にはり付けにされる。
「じゃあ本当にあの鬼婆がつれてけっていったのぉ? また零武隊の悪い癖の、賭けとか悪戯とかじゃないわけぇ?」
部屋の真ん中に置かれている椅子贅沢に座り、壁の二人を睨ける。口調は普段のままだが殺気は隠そうとはしていなかった。 抵抗の激しかった激は幾度も腹部を殴られ、今は奥歯をかみ締めて睨みつける。反抗的な瞳が男を刺激するが、水色の髪をかきあげなんともない振りを装った。
「大佐に尋ねりゃいーだろっ」
「聞いた。が、信用できねぇな」
がちゃ、と扉が開いた。
 白服の軍人が、そこにいた。軍帽をとり、長い髪をたらして凛と立つその姿。ノックをしなかったのはわざとだろう。
「……話したのだから信用せんか。ったく。
 貴様らも、二人がかりなのに傷の一つも負わせられんとは情けない」
「あんたもここによく捕まってるじゃない。よく言うわ」
「つまらん冗談を吐くな。
 私は機嫌が悪い」
いつもの無表情のまま、かつかつと部屋に入ってくる。椅子にだらりと座る警官の胸ポケットから鍵を取り出し、まず激の両腕を開放する。鍵を渡して八俣に振り返った。
「天馬ちゃんに娼館で筆おろしさせたかったの? 下種ね」
「一般的習慣と思うが」
「そこまで管理しなきゃ気がすまないわけ? あんた。
 日明の子に随分なことしてくれんじゃない」
「うちの教育方針に文句をつけないでもらおう」
 ぎしっと、八俣の椅子が僅かに揺れた。
 視線が蘭の横顔に注がれ、それから目を伏せる。
 そう、わかりやすく驚くな。頼むから。
 ……蘭は心でつぶやく。その切なげな目が、一層男の罪悪感を刺激するとは知らずに。
 少し、後悔した。
 彼女の様子をよく見ると、普段の傲岸不遜な瞳がにごっており、声もどこか覇気がない。頬には深い傷がある。最近つけられたものなのだろう、まだ薄ら赤い。態度は平静を装っているのが余計に痛々しかった。
 現朗と激は大佐の側によって、敬礼してから頭を下げた。
「昨夜は失敗しました。
 日を改めて再びお連れしてもよろしいでしょうか」
「その、夜盗が、いきなり入って……さっき御代返されて、お礼いわれちゃいました。あと、女将から、お礼したいからまた来てくれって」
恫喝と激痛を予想して、ぎゅっと二人が目を瞑る。
 だが、それはいつまで経ってもこなかった。
「……いや、もうかまわん。渡した金は迷惑料として受け取っておいてくれ。 貴様らは二度とその店に近づいてはならんぞ。
 私事で手間をかけたな。警視総監殿」
言いながら背を返す。表情は、もう見えない。
「いーえ。あんたの押し付ける仕事絡みのほうがすごい手間ですから。それに、天馬ちゃんのおかげで事件が減ったんですもの。感謝するのは一応こっちのほうね。
 わかっているだろうけれど……もう絶対にあの娼館に天馬ちゃんを連れていっちゃ駄目よ。用心棒だけが取り込まれていたとは考えられない。遊女の中にも何人か裏切りはいるわ」
出て行こうとする彼女に言って、八俣は椅子から立ち上がった。気配に気づいて、軍人の足が止まる。
 去ろうとする後ろ髪を、肉厚な大きな手が一房持ち上げた。

「……少しは、周りを頼ることを覚えろ。
 天馬のことなら、てめぇの仕事より全然たいしたことじゃない。
 何かあったら来い」

「気持ちだけは感謝する」
「なら、今夜お前の家に行くぜ。
 酒、用意しておけよ」
手にある髪がするりと抜けて、主に従って部屋を出て行く。
 それからしばらくして、ようやく、立ち尽くす二人の青年のほうに振り向いた。苦笑を浮かべている。
「……あれじゃ、あんたたちも心配するわね。
 調書から天馬ちゃんの情報は一切消去しておく、って伝えておいて。
 ごめんねぇ、天馬ちゃん絡みだと頭に血が上っちゃって」
投げキスを飛ばすと、ぎゃあっと激が大げさに部屋の隅に逃げる。現朗はきちんと敬礼をして、部屋をさっさと一人後にした。