1 2 3 4 5 6 7 8 凄絵 | ||
ぽかぽか陽気の中で、八俣は寝そべってその様子を見ていた。 目の前ではいとしい天馬と菊理が異国の衣装を着てぺったりくっついている。その周りで蘭が、嫌がる瑠璃男に魔女の帽子をかぶせていた。 日明家では、四人の子供に仮装衣装に身をくるんでいた。 八俣は視線を移して今まで読んでいた新聞に目を通す。 『史上最悪の食人館。殺戮の宴』 面白い見出しだ。 一番に気づいたのは八俣だった。一口食べたフォアグラについていた肉の香りが気になった。 あの停電したホールの中で蘭が犯人と被害者の二人を並べて事情を聞くと、彼らは口々にいった。「この男は私の兄を殺した」「だがその兄は私の妻を食った」。化け物が消えたために罪悪感が戻って、彼らは泣きながら告白した。 奥方を食べたときから、私たちは味を覚えた。 だから、私たちの仲間を食った。 金髪が美味いのだ。 八俣が思った感想は一言。 馬鹿だ。 つまり彼らは互いに身内を食った故に憎悪が深まったのだ。どおりで五通も殺人予告があるわけだ。しかも今回のパーティはわざわざ主人は何体も食材を用意したことまで知った。 化け物が払われた二人は、急に自分たちの仕出かしたことの恐ろしさを悟り、狂ったように二人の知らぬ神へ祈りをささげていた。その後は例の茶番劇である。零武隊の行動は派手過ぎだったが外交的にも良いカードを得たので結局良い評価に傾いた。 蘭は報奨金で天馬と菊理、さらに帝月と瑠璃男の服まで注文した。 全員で着て食事をしようという蘭の一言により、今日、八俣も彼女の家に呼ばれた。もちろん仮装をして。食事は料亭から届く手筈になっている。 「八俣。見ろ、どうだ!」 穏やかな小春日和の下で、手招きする彼女に命令されて、新聞をとじて立ちあがる。 人肉を食べさせられそうになって。 腕を怪我して。 気色の悪いものを見て。 しかも全ての事件を上手く揉み消す。 今回は外交と上流階級が絡んだ上にマスコミがしつこく追ってくるので本当に大変だった。いつもはやりすぎやりすぎと批判していたが、まあ、最後の盛大な暴露は自分も加わった以上文句が言えない。だいたいあの血の上った状態だったら、ああいうパフォーマンスがしたくなるのが人間というものだ。 まあ、ともかく。その代価が天馬の笑顔と今回の食事、なのだが。 どう考えても割に合わない。 零武隊の手伝いは絶対しない。するものか。 と、心に誓いながら、八俣は時期はずれのハロウィーンを楽しみに向かった。 |
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