凄絵
 ・・・  女装/西洋/肉食7  ・・・ 


 館の給仕と零武隊が上手く誘導したので、客たちは全員玄関ホールに集まっていた。会場となったホールからは数十メートル程離れた位置にあり、広さは十分にあった。ホールでは物が多いので危なっかしかったが、ここはそんなに物がないので蝋燭の火でも十分だ。
 もはや、客たちは停電という最大のハプニングを楽しんでいた。
 混乱を抑えるために、先ほどの警官は予定の仕掛けだと言うようにと現朗が主に指示したのもよく効いた。ハロウィーンに蝋燭の晩餐、最高の組み合わせだ。誰もがあの戦いに気づかず再び酔い始めている。給仕らはハプニングにも負けず、新たな酒を配り始めていた。
 新たな酒を飲み、先ほどの暗闇の恐怖を語る。
 または暗闇に紛れて唇を重ねあう。
 再び夜会は幕を開いた。
「おい。階段に蝋燭をともせ」
主は給仕らに特別な指示を出した。しばらくすると、階段だけがぼんやりと明るくなった。
 狼男の格好をした招待主が階段の上に現れると、客たちの声が止まる。視線が集まった。彼は朗々とした声で停電のお詫びと今宵のパーティについて述べると、客たちの間から盛大な拍手が起こる。
 八俣と蘭がそこにたどり着いたのは、ちょうどその時だった。
 蝋燭を蘭がもち、八俣がエスコートする。
 彼らは人ごみを掻き分けて一直線に進んだ。
 血の滾る二人の美しさに、周囲は何も言わずに道を開ける。
 変な日本人に気づいた客たちの間で、ざわめきが広がった。
 それでも気にせず、二人は階段をゆっくりとあがっていく。
 自分の独壇場に侵入された招待主は、あからさまに嫌そうな顔をして蘭を見下ろした。
「Sir. Please,answer her question,ok?」
『主人。彼女の質問に答えていただけますかね?』
八俣が言った。赤い魔女はふてぶてしい笑みを浮かべて、狼男に侮蔑の視線を送る。虚仮にされたのが不快だったが、ここまで周囲の注目を浴びて断るわけにはいかない。
「Ok.waht's?」
蘭が、その、赤い小ぶりの唇を動かすと、低い声が漏れた。
「はう めに ピーポー ゆぅ はぶ きる?」

 How many people you have killed?
 ―――何人殺した?

男は張り付いた笑顔のままで言った。
「Oh,little witch, I'm a horrible werewolf. Many many people I have ate.」
『小さい魔女よ、私は怖い怖い狼男。たくさんの人を食ってきたのさ』
どっと起こる笑い声。 
 だがそんなものには騙されない。
「Are they delicious? Tonigth party,you gift guests with human-flesh-dishes.」
『へえ。それで彼らは美味しかったかい?
 今夜の夜会で、あんたは人肉の料理を振舞ってくれたようだけど』
八俣がいったと同時に、
「そんなに病み付きになるほど良かったのか?」
蘭は日本語で言って手に持っていた骨を掲げた。
 長さ二十センチほどの太い骨。
 調理場で拾ってきた。骨には燻製された肉がこびりついている。
 狼男はいきなりそれに飛び掛った。
 蘭はそれを顔目掛けて投げつけると、器用に受け取って、肉をしゃぶる。
 ―――その行動に、あたりは騒然とした。紳士然としていた彼が、それを食べる様は狂人のようだった。となるとどちらが正しいのか。
 正しいとなると、それは何を意味するのか。
 悲鳴が闇を切り裂く。いとも容易く、混乱は戻ってきた。
 人々は我先に胃の物を吐き出そうと必死だ。

 人を食った。

 蘭は拳でその男を下顎から殴り気絶させると、朗々とした声でいった。
「現朗、外の隊員全員をここに集めろ。激は数人使って客をここに集めておけ。
 他の者はこの館の人間をすべてひっ捕らえろ。
 殺しは許さんが、武器の使用を許可する! かかれっ」