・・・  手を繋ぐ  ・・・ 


 午後三時、蘭と菊理は二人きりで畦道を歩いていた。
 蘭の手には、千歳飴がたくさん入った袋がある。
 近くの神社で出店が出ていると家の者が言ったので、菊理と二人だけで出かけてきたのだ。どうやら七五三の祭りだったらしく、少女と一緒に抱えるくらいたくさんの飴を買った。
 蘭の数メートル前で少女は飛びはねるように歩いている。
 最近、子供たちの間でスキップというのが流行していた。他の三人は出来るようになったが、菊理だけがまだ出来なかった。帝月が「お前には一生出来ぬ」と言ったせいで大喧嘩になり、今日も二人は一度も口を聞かなかった。
 右手にある巾着も少女の動きに合わせて上下していた。
「転ぶなよ」
「はーい」
菊理が、いつもよりも更に高い声で返事をする。
 ててん、ててん、と頑張っているが、やはりスキップとは程遠いものだ。右、左に頭が揺れる。
 着物でやれるものではないだろうに……
 と蘭も心で苦笑するが少女に言っても聞かないだろう。
 どうしてできないのか、少し歩いては首をかしげて立ち止まる。
 菊理は自分に必死だ。

 ……寂しい。

 気がつけば、小さい白い手をいつの間にかじっと見ている自分がいる。その我侭な想いに気づいて、何を馬鹿な、と叱咤した。頑張って練習する菊理はとても可愛いのだが、蘭としては、久しぶりの二人でのお散歩なのだ。
 久しぶりなのだ。
 あと少しで家だというところで、数メートル先を歩いていた少女が、突然こちらに戻ってきた。
「おかあさま。おかあさま」
ついついとズボンの裾を引っ張って、零れそうに大きな瞳をこちらに向ける。
「どうした?」
「すきっぷできますー?」
「……まあ、軍人だからな」
と、蘭はこっそり嘘をついた。実は一度もやったことはない。
「教えて。教えて欲しいのです。くくりだけ出来ないのやぁ」
「大丈夫、大丈夫。すぐに出来るようになる。
 では、帰ったら直々に教えてやろう」
ずるいな、と自分でもちょっと思いながら、蘭はその少女の手をそっと握った。
「じゃあ早く帰るか」
「はいっ!」
繋いだ手を振りながら二人は笑顔で帰っていった。


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