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瑠璃男は、絵がとても上手かった。 「ほう」 「まあ」 「うわぁ」 三者三様に、子供たちは声を上げた。少年の手の下にある紙には、まるで今にも動き出しそうな雀が絵がかれている。 羽の膨らみ、緊張する筋肉、そして丸い瞳。 はいな、と天馬に手渡した。 「瑠璃男はうまいなぁ」 「ほんと。すごいわぁ。ねえ、生きているみたい。可愛い雀の子ね」 「姫さんもらってな」 「わーい。有難う、瑠璃男」 天馬と菊理の二人はその紙をもって歓声をあげながら出て行ってしまった。 二人きりになって、にやり、と帝月は笑った。 絵の具を片付けている少年の前にとことこと近寄る。 「ん?坊ちゃん、どないしましたぁ?」 「瑠璃男。 これから僕が言うものを、僕が言ったところで描いてくれ」 夕焼けで空が染まったとき、馬車が一台近円寺邸の前につけられた。下りてくるのは真っ白な軍服をきた軍人と、スーツを着た男だ。 玄関をいつもの通り遠慮なく開ける。その乱暴と丁寧の中間をとったような音を聞いて、家人が飛び出してきた。 「これはこれは。日明大佐、お出迎えが遅れました」 冷や汗を拭きながら向かえいれようとする下男に、一瞥もくれず蘭は言いながら通り過ぎようとする。 「近円寺殿に用がある。 案内はいらん」 「はっ……はい」 軍人の対応になれていないその男は、緊張気味に返事をした。玄関の扉を開けて、頭を九十度以下まで下げる。 いきなり殴る。 ……それが、使用人らで囁かれているこの女性に対する噂だ。しかもその拳が非常に重い。一度殴られた者の怪我の跡を見たが、彼は腫れ上がってニ三日部屋から出られなかった。 「くくく。恐れられてますね大佐ぁ」 その頭を眺めながら、眼鏡の教授が笑う。 「黙れ。無駄口をたたいている暇があったら斬るぞ」 淡々と言いながら靴を脱いでそして玄関から上がる。慌てて丸木戸は靴を放り投げるように脱いで後を追った。 廊下に闊歩する足音が響く。 蘭の機嫌は、非常にとことんありえないくらい悪かった。 また近円寺公が菊理を見世物に使ったと言う話を聞いた。今日こそ言ってやらなければならない。 あの親爺。狸親爺。鍋にして食うぞいい加減っ! 「大佐ぁ怒り過ぎですよ。殺人事件は不味いですよ。ここでね」 後ろから遠慮がちに声をかける教授の声は、もう、届いていない。 目の前は暗い廊下。 が、いきなり。 がつんっ! 壮絶な音がした後、軍人はそのまま廊下にぶっ倒れた。 「……だっ…………大丈夫ですかぁぁっ!?」 一瞬理解できず、とりあえず蘭の下に近寄る。 頭を強く打っているが……まあ、失神まではしていない。患部に無意識に手をあてながら、目を白黒させている。 丸木戸が近づくと、がばっと体を半身上げた。 視線の先には……。何も無いよう、な、気がしていた。その空間に手を伸ばすと何かが触る。 「戸板に……絵が……ある」 男の低い声が聞こえた途端。 『わーい』 ぱたぱた……とちみっ子が声を上げて離れていく足音が、二人の耳に響いた。 |
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