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こんな、まるで、夢のようなお菓子が、この世に、存在するなんて。 それを知ったのは、昼間は暑くても日が沈めばまだまだ寒さを覚える初夏の終わりの頃だった。母に手を引かれて連れていかれた親戚の家。「珍しいものを頂いたから」の一言を添えて出された菓子のあまりの美味しさに、頬っぺたが落ちたのではないかと心配になったくらいだ。 その夕方、帰り道で流れ星を見た。 普段は占いやおまじないなんて少しも信じないのだが、その瞬間、何か、説明のつかない、衝動のようなものが胸の奥底から沸き起こった。 またいつか、お腹一杯干菓子が食べれますように。丸木戸やあいつらと、一杯食べることができますように―――。 流星が消えてしまう前に、必死で三回心で祈った。 きらりと最後の一光を見たとき、なんだかお星様が自分の言葉をきいてくれたような気がして、嬉しくなった。 季節外れのカナカナが、一匹静かに鳴いている。 日暮れの一本道。 夏はもう近い。 少女は掴む手を強く握り締めると、どうしたのだろうと母が不思議な顔を向けてきたので、にっと笑って見返した。母は静かに微笑んだ。 ―――それはまあ、さておき。 |
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