・・・  半身 1  ・・・ 


 「おい。真、今夜の夕飯はどうする? 寮はやめて外に出ないか?」
一般隊員の終業時間から二時間過ぎ、あたりは真っ暗になった春の夜。
 零武隊の中のエリートたちの仕事場では、ようやく仕事が終わったところだった。全員白い軍服に、金の紋章がゆれている。少尉以上の彼らは、五時までは下士官たちの面倒をみることに終われ、彼ら自身の仕事は就業時間が終わってから始まるのだ。
「真、仕事は終わったのか?」
七時になって急に帰り支度を始めた隣の席の男に、炎は声をかけた。
「ああ。
 お前は?」
三白眼にたずねられると、炎は自慢げにぴらりと書類を見せる。
 締切日は一ヶ月以上先になっている。
 真はさしてそれに興味を示さず、逆に隣の親友の机の上を見た。現朗がどんなに小言を言っても片付かない、搭ができているごちゃごちゃの机の一番上から、ぴらりと一枚取りあげる。嫌味たらしくしげしげと真はそれを眺めた。
 ぐ、と炎が喉の奥でうめく。
「………………これは?」
親友の声は、非常に硬かった。
 締め切りは一週間前に切れてるそれは、部下全員分の評価調査書類だ。この報告を元に来年度の給与査定をするため早くに必要なので、あの激ですら現朗にしつこく突付かれて締切日には出していた。炎はそれを見たとき心に決めた。

 面倒だ。
 やめよう。
 押し付けよう。

 なんだかんだいって、現朗は炎に対しては強く出ない。やらずに放って置けば一応フォローしてくれる。
 その気持ちを見透かして、真はあえてそれを注意したのだ。
「……こ、今夜持ち帰ってやろうと……思っていてな」
しどろもどろに言い訳をしながらばっと奪い返した。
 親友は聞こえるようにため息をつつ、そうか、と返答する。
「明日には提出出来そうか?」
「も、勿論だ」
「それでは明日朝、また見せてくれ」
と、現朗になんとか数日中に押し付けてやろうとしている彼に釘を刺す。
 それも太い五寸釘だ。
 心で徹夜を覚悟しながら、炎は、会話を元に戻そうとした。
「そ、それより。今夜は夕飯を一緒にしないか?」
「夕飯?
 すまん、今夜も少し都合が悪い。一時か二時までには寮に戻るつもりだから、寮内の取り締まりは頼む」
「そうか。
 …………わかった」
真はその言葉を聞くと帰り支度を再開した。
 炎はみせられた書類を手にとり、それを手の中で弄ぶ。丁寧な文字で書き方・内容・目的などが始めの二枚にかかれており、その後の頁は隊員一人に一枚の提出用になっている。炎の部隊は零武隊の中でもそこそこに数が多い。もっとも真の部隊に比べれば半分程度しかいないのだが。
 いろいろ考えているうちに、目の前の親友はコートを着込み手袋を嵌めなおしていた。鞄はいつもの皮の鞄。それ以外にはない。
 じゃあ先にな、と言うと、さっさと出て行ってしまう。
 置いてけぼりを食らった子供のような目で、炎は、その背中を眺めていた。