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部屋で寛いでいると、鉄男が不思議な荷物を持ってきた。独身寮の玄関に届いたのでもって来てくれたのだという。 縦一メートル半、横一メートル、厚さ八センチ、重さ……はやや重い。 それを眺めて腕を組んでいるところに、恋人は戻ってきた。 「おお。届いたか」 扉を開けるなり金髪はそう言って荷物に近寄る。 「何これ」 「鏡だ。姿見を輸入業者の店で見つけたので即座に購入した。これが最後の品でな、あと少しで売り切れそうだったから運が良かった。こんな大きな鏡はさすがにまだ我が国では作れんからな」 「……へえ。ずいぶんでけえな」 一体いくらしたのか聞くだけでも恐ろしいな、と激は口の中でつぶやく。現朗は一心不乱に紐の結び目と格闘していたが、ようやく諦めがついたようで、自分の机から鋏をとりだしてぶちぶちと紐を切っていった。 なんでそんなものを買うかね。女じゃあるめえし。 まあ、現朗は一見女っぽいような色香がある、といえば、ある。金髪の軽くかかる白い首筋、そして小またの切れ上がった目。体格が少しがっちりしすぎだが、この前されていた女装も似合っていた。お洒落に気遣う類なのかもしれない。 ……でも、待てよ。 激は顎に手を当てて考え直した。 確かに外見はかなりいけるが、鏡を彼が必要としたことがあっただろうか。 否。朝の手入れを見ていても、一度も鏡を使っているところを見た記憶はない。風呂の時にも浴室に鏡が設置してあったのにそれを使わないでしょりしょりと髭を剃っていた。 小さな鏡ですら使わない彼がいきなり大鏡を購入。 ぞくり 嫌な予感が全身を駆け巡る。 「すっげえなぁ、こんな大きい鏡あるんだー」 「ああ。流石異国の技術は目を見張るものがある」 「ホントホント。で、これ何に使うんだ?」 「お前との閨事にだ」 あたり……というなんだかどこかで聞こえた声が頭の奥で響く。 止めろっ。止めるっきゃねぇぇぇぇ―――っ! 「あははははは……へえ何で?」 「お前が夜の行為をいちいち恥ずかしいと言うので、近頃真剣に真面目にそれについて非常に色々考えて考察と分析を重ねた結果得られた結論として、お前が赤面性の傾向があるのではないかと思いついた。 そこで、お前が自分の裸体に慣れるようによく見える大鏡を使って―――」 どぐざぁっ――― 問答無用の棒の攻撃に、現朗が吹っ飛ぶ。 一躍して倒れた恋人のところに辿り着き、そして顔を足で踏みつけた。 「な、なひをすふっ!?(何をするっ)」 「……案外学習能力ないなー。そんなに禁欲が味わいたいのか」 「なへらっ(何故だっ)」 上目遣いで見上げると、激がにたりと口を引きつらせる。陰影が毒の無い彼の顔に凶悪さを添えて、彼の憤怒をよく表した。 ……何故か怒っている……しかし何故っ!? 訊いても答えてくれそうにはない。 激は棒を真っ直ぐに持ち替えた。その切っ先を柔らかな腹に合わせて、ぷにぷにとつつく。彼の意図が読めて、さしもの現朗も顔が青ざめた。 「やめ―――」 予想通り、棒を大きく振り上げる。 「一遍死んでこぉぉぉぉぉぉぉ―――いっ」 どす。 ………………………………零武隊殺人事件 完。 |
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