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百六十八時間 = 七日間 = 一週間。 どんな言い方をしても変わらない時間を過ごし、ようやく、現朗は激と布団を共にする権利を得たのである。 先日恋人のためを思って衣服着用という方式で行った行為がいたく恋人は気に入らなかったようで、一週間もの長きに渡る間情交は勿論ペッティング接吻その他に至るまで接触を禁止されたのである。現朗は不満のたけを思いっきりぶつけたが激は張り付いた笑顔のままで一言さらりと言った。 『 俺と別れたいなら、好きなことをすればいいんじゃねえの? 』 ……着用行為はよほど恋人の怒りに触れたようだ。 これはもはやどうしようもないと現朗も悟り、しぶしぶとおとなしく従ったというわけである。 現朗としては、本当に納得いかなかった。 激が恥ずかしいというから衣服を着たのである。 しかもきちんと翌日用の服は別に用意しておいて、心行くまでできるための準備は抜かりがなかったはずだ。 そして何より、激のあの夜の興奮度を見ればいかに良策だったか、言わずとわかるはずだ。 なのに、激は「もう一生しない」と言い切った。ちょっぴり傷ついたのだが、傷ついてもへこたれないのが零武隊の現朗なのである。 「激。さて、今夜のことだが」 「…………服は、やめろよ」 警戒はとかないものの、今夜の行為自体にNOは出さなかった。 激の方も、禁欲宣言を自分で出しておきながら恋人の目の前で堂々と自慰行為をするわけにもいかず、溜まっている。その大きな双眸で睨まれるだけで、現朗はずくりと体が疼くのをなんとか抑えた。 今はまだ、冷静でいなければならない。 「それではなくて、その、明りがあると恥ずかしいんだよな?」 「だから消せばいいだろがっ! 普通にっ!」 「はっはっはっ。 で。 つまり、お前が見られていることを意識するのが悪い」 もっともな意見は笑顔で踏み潰し、金髪は自分の考えを述べる。 は? と黒髪は小首をかしげた。 「ゆえに、だ。見られていることを意識しないような工夫をすればお前も余計な感情に惑わされずに没頭することが可能となるわけだ。 わかったな」 「……理屈はわかったんだが」 「よし」 現朗は備えつけの箪笥に寄り、一番上の引き戸から手ぬぐいを取り出した。絵柄のない質素な手ぬぐいだが、濃紺に染められている。 それを持ったまま、激の座っている後ろにしゃがんだ。 恋人の動きに全神経を集中させながら、激は首だけを返していると―――。 「目隠しでどうだ?」 吐息がかかりそうな至近距離で見つめられながら、そう、言われた。アップで恋人を見ると無条件降伏になってしまう激は、どきりと心臓が跳ね上がる。 「め、目隠しだって?」 「ああ。単純な手段だが、悪くはないだろう?」 確かに服を着たままあんなことをするよりはマシな気がする。 それに、やはり顔を付き合わせてするのは非常に気恥ずかしい。 でも今夜は、その、やめる気はしない。 ――――――ならばその案は良いかもしれない。 「……わかった」 恋人は案外あっさり首を縦に振った。 現朗は丁寧に彼の眼にあわせて、後ろで固く結ぶ。 「あっ、服……」 「脱がしてやる」 視界が暗くなって少し不安定な肩を両腕でつかみ、布団のほうへ誘導させる。全身で頼ってくるのが嬉しくて金髪は独り莞爾とした。 体を強張らせる彼をしゃがませて、布団の上に身を横臥させた。俎板の上鯉と同じような状態になって激は覚悟を決め、全身から力を抜いてだらりと投げ出す。 視界が奪われると妙な不安に襲われて、いつもよりも感覚が鋭い。現朗が体を触っているのは確かだが、服がどこまで脱がされているのか分からない。それが羞恥心を非常に刺激する。 不意に、顔に何かが触れた。 「あっ」 現朗が鼻を舐めたのだ。ただそれだけの行為なのに、あまりにも唐突で、声を上げてしまう。 舐めるのに飽きて、今度は甘噛みを始めた。その度に激がびくびくと震えた。 「怖いのか?」 くつくつと喉の奥で笑う声を聞いて、顔を横に背けてむっと口をひん曲げる。 畜生っ。見えないからって調子に乗りやがって…… 激がそんなことを思っているとは露知らず、現朗は今度は下半身に手を伸ばした。服の上から始めは優しく撫で回す。ひぃ、あ、あう、と意味を成さない言葉でいちいち返してくるのが面白くなって、次第に力をこめて、握ったり揉んだりを繰り返した。 激は膝を閉じようとするが、そんな抵抗など抵抗のうちにも入らない。 しばらくそれで弄んだ後、一旦手を離して横たわる恋人を見た。いつの間にか紅潮し、涙が零れている。はあはあと荒い息遣いに変わっていた。いつもより大人しく身を任せるあたりが三割り増しに可愛いらしい。 顔が見れないから嫌だったが、案外いいな。 そんなことを考えながら、激のズボンの中に手を突っ込んだ。 「ぎゃぁっ!」 驚いた恋人がじたばたと動いて身を逃がす。 「おい。脱がしている最中なんだから、大人しくしろ」 「な、なんか、なんか嫌だっ。嫌だぁ。やっぱ止めるぅっ」 羞恥心、恐怖心、その他諸々入り乱れて、彼の精神はとうとう破裂した。 「ああ? ……何いってるんだお前は」 「だ、だ、だって。嫌なんだからいいだろっ」 「いやしくも帝国軍人たる者が簡単に前言を覆すな」 現朗にぴしゃりといわれると、一瞬怯んでしまうのはもはや習性だ。その内容がどんなものであろうが、彼の体は硬直してしまう。 大人しくなった隙に、するりとベルトを抜くがどうやら気づいていない。ぐずぐずと鼻を啜りながら哀れな声を出した。 「……も、もう止めよ。今日はやめよぅ。なんか、恥ずかしいんだよぉ」 「煽るこというな」 煽ってねぇよぉっ。 心で盛大に突っ込むが、それが口にできない自分が悔しい。無理矢理目隠しを取ろうと手を伸ばしたが、それは簡単に阻止されて手首を捕まれた。 一旦堰を切ると涙が止まらない。 えぐえぐと泣く激の腕を万歳の格好で上げて、容赦なくベルトで一纏めにする。そこら辺の拘束術はさすが零武隊のことだけあって手際が良い。 「何すんだよぉぉ―――」 「……お前、このままで止めるつもりか?」 するりと、現朗が下半身を直に撫でた。 脳天まで駆け抜けた快楽で激のすべての動きが止まる。 いつの間にか、ズボンも下着も下ろされ局部は恋人の目に晒されていたのだ。そうとは知らなかった激は頭が混乱し、そして、急に後ろめたくなる。 そう、彼の下半身は理性に反して既に期待していたのだ。 この後の行為を。 すでに反応を見せているそれを指先でつついて、恋人が嗤う。 「……なよ…………見るなよぉ……」 「存分に楽しましてやる」 |
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