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「俺一週間指名ナンバーワンだったぜ?」 「なーにいってんの。 俺様なんてプレゼントに指輪貰っちゃったんだぞ」 毒丸と激の不穏な会話に、現朗が気づいたのは偶然だった。偶々部屋の角を曲がったら二人が小声で話していたのだ。 向かい合って嬉しそうに話している。二人だけの秘密を。 現朗はさっさと通り抜けようとしたが、次の瞬間、その耳に入った内容は聞き逃すことはできなかった。 『あ。姫だ』 秒速で飛んでくる拳をかわして、二人は二メートル以上後ろにジャンプする。彼が攻撃するのは予想済みだった。 が、その威力は侮っていた。 大きな音がして、壁に、穴が開いていた。 ……いきなりマックス? と、毒丸が心配そうに激を見ると、激も相当驚いたようで口があんぐりと開いている。 「……聞いた……のか?」 白眼で睨みつけるその怖いこと。 問われるままに、毒丸はがくがくと首を縦に振った。 人生の汚点が……唯一の汚点が……知られてしまった…… 暫く拳を壁に埋め込んだまま浸っていた。 そして、突然。 急に手を抜いて頭を抱えると、がしがしと壁に打ち付け始めたのだ。 その様子があまりに激しかったので二人の方が慌ててしまう。 「おいっ。大丈夫かよっ! どうしたっ」 「現朗ちゃんっ!」 「死なせてくれっ! 頼むっ! あんな恥を晒して生きるならば死んだほうがましだぁっ」 激が後ろから羽交い絞めにして、なんとか取り押さえた。綺麗な白い額から一筋の血が流れ、服に飛び散る。 「落ち着けっ。落ち着けって―――」 激は精一杯の力で抑えていた。手加減したつもりは無かった。 しかし、現朗は信じがたい力を発揮し、二人を振り払う。激と毒丸は飛ばされて床に倒れた。 そしてまた壁に頭を打ちつけようとする。 そこに――― 「こんなところにいたのかっ。現朗っ」 警視庁から帰ってきたばかりの炎が、やってきた。 真っ赤な髪の先輩に、流石の金髪の動きも止まる。 それは正気に戻ったからではなかった。彼が、空気が重くなるような殺気篭った目で睨みつけていたからだ。 この男にそんな目で睨まれるようなことをした覚えはない。だが現朗の気持ちはしらず、ふん、と炎は忌々しそうに鼻で笑う。 「……姫として少しばかりいい記録を残したからといって、調子に乗るな。 俺は女王として伝説を打ち立てたぞっ」 ベルサイユ宮殿の中の女の戦いのような台詞に、現朗の目が点になる。 炎の後ろにいた真も、三白眼を吊り上げていた。 「……俺は椿姫だ」 言うだけ言って、二人は踵を返す。 「ちょっとお待ち下さいっ」 現朗が伸ばす手は空を切る。 「俺はぷりちー女子高生だぜ。おばちゃん」 「俺は色気たっぷりの人妻だ文句あるかコラ」 好戦的に毒丸と激も名乗りをあげると、ぴたり、と二人の足が止まった。 四人に浮かぶその瞳に浮かぶ色は――― ―――好敵手、として認めたときの色だ。 零武隊内部に不思議な戦いが勃発し、その鎮圧に蘭が頭を悩ませる羽目になったのはこれからそう遠くない未来のことだ。 |
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