08/07/2006 地獄から戻ってきた真は、湖畔で昼寝をしていたウツロウを見つけるや否や正座させた。 刀を抜きつつ、静かに問う。 「ウツロウ、俺はお前にお留守番とお守りの二つを頼んだはずだ。 ―――言い訳は一つだけ聞く。 何故、ゲゲゲハウスが微妙に変わっている?」 ウツロウは一瞬は正座をしていたが、すぐに面倒になって横になって大あくびをした。 「炎様が壷を落として木が零の実を吸収した。 ま。被害はあまりなかったほうだな。三日で片付いたし」 「お前はぁぁ―――っ」 真が怒りに任せて刀を振り上げる。 が、その瞬間。 「うぉーっ。 お前が真かぁ? これから宜しく頼むぜ」 能天気な声が、ゲゲゲハウスの窓から聞こえた。 顔を向けると、見慣れぬ青年が手を振っている。天を突き刺すような独特な髪型に、大きな垂れ目。真っ赤な頬のある幼顔は人のよさそうなオーラが流れ落ちている。 事態が飲み込めず疑問符を浮かべていると、彼は窓から降りてきた。動きやすそうな青い道服を身に着けており、彼が動くたびにひらひらと腰元の布が揺れる。 「初めまして」 にこっと笑いながら、手を差し出す。 思わずつられて握り返していた。 「……初め、まして。ええと……」 刀を背中に戻しながら質問する。 「猫娘族の激。男だけどな」 といって、苦笑しながら頭を掻いた。 三毛猫は雄が生まれないのと同じように、猫娘族は雄はいないはずだから、彼は変異種という奴なのだろう。 真の鼻をいい香りがくすぐった。 「激ぃ。なんでミニスカートじゃねえんだよ。あれ、伝統衣装なんだろ」 寝そべるウツロウが、不満そうな声を上げる。顔はしっかり笑っていたが。 「ば、馬鹿っ! こんな昼間っから着てられるかよっ。あれは、一応、初婚のときの勝負服なのっ! だぁぁあ、もう、いいだろ別にっ」 ウツロウが揶揄すると、頬を真っ赤にして怒り出す。 ゲゲゲハウスから炎婆が激を呼ぶ声がして、ぴくんと耳が動いたかと思うとすぐに行ってしまった。 真は、完璧に固まっていた。 自分のいない間に家が壊れて新しい家が建って、しかも居住者が一人増えた。 前者は何度かあったからいいが、後者は始めての、空前絶後とも思える出来事だ。 拾ったのが狸や狐なら戻せというべきだが、あんな大きな普通の妖怪では話が異なる。 何から突っ込みをいれればいいのか、というか突っ込んでいいのか、もはや理解を超えていた。 「ま。そーゆーわけだからよ。 一人居候が増えちまったんで宜しく。 つーか多分俺の嫁になるから」 言うが早いか、すうすうと寝息を立て始めた。 その、あまりの爆弾発言に。 地獄から戻ってきたばかりの真は熱で三日ばかり寝込んでしまったのである。 戻る ・ 今の雑記 |