・・・  零武隊特産品。 2  ・・・ 


 相変わらず指一本動かすことができず、しかも、目をそらすこともできない。蘭の澄んだ瞳に映る男は冷淡な表情をしていた。その、いやに冷めた目が女の羞恥心を刺激する。
 巨乳というよりは美乳というのが相応しい白い乳房。
 もともとさほど大きくなかったので、薬の作用で揉み解すには丁度良いサイズになったということか。
「大きさは関係ないとしても……足りるかな」
足りないならば何度か搾乳する必要があるな、と丸木戸は思ったが、すぐに考えるのをやめた。今は搾るほうに集中したほうがいい。散漫な気分では採れる材料も採り逃してしまうかもしれない。
 珍しく自分が焦っているようなので、意識を集中するために、目を瞑って手順の確認をもう一度する。始めから終わりまでシュミレートして、計画に漏れがないと言い聞かせればいつもの自分が戻ってくるようだった。
 胸を曝け出した状態で放置された蘭は、悔しくて悔しくてそれどころではなかった。男の目は実験するときのそれだ。ならば自分も、仕事の一環として割り切った方がかっこがつく。
 変に恥ずかしがるほうが、余計に恥ずかしい。

 ―――負けるものかっ。

 と、決意を新たにしている彼女の状況など一切知らず、普段の冷静な精神が戻った丸木戸は再開した。
 両方の乳房に、手を置く。
 まずは、右の乳房を優しく揉み始めた。正面から他人の乳房を揉むのは初めての経験で、なんとなく力加減がつかめない。まあこんなものだろうか、と考えながら上官の様子を伺う。
 実験材料は、真一文字に口を閉じていた。いつも纏っている凛とした空気は少しも乱れていない。
「あ。そうやって動かないでくれると助かります。すぐ終えますからねー」
幼児に注射する子供をあやすように、優しく甘い声が蘭の怒りをさらに誘った。ぎりぎり、と歯軋りが聞こえるが丸木戸は何も思わない。
 生暖かい手が、弱く、強くと力加減を変える。
 蘭の意地が通用するほど、胸から伝わる刺激は生易しいものではなかった。
 一分も経たないうちに、体の奥底から甘い疼きが湧き起こる。
 初めは痛いと思っていたはずなのに、すぐに物足りなくなった。気が狂いそうになるほど、もどかしい。
 全身の至る箇所が熱くなる。蘭の吐息が荒くなった。
 次第に、刺激が変化した。揉み方が変わったわけではなく、純粋に彼女の感じ方が変わったのだ。閉じられていた淫らな感覚が、教授の手で無理やりこじ開けられた。つんと尖った突起を親指で嬲る度に、びくびくと足が痙攣する。
 頃合だろうと丸木戸は判断し、親指と人差し指で二つの突起を摘み上げた。
「……っん」
堪えきれず。
 弱い嬌声が、とうとう漏れた。
 ……それから落ちていくのは、早かった。
「んっ、ぁ……ぁっ……いいっ」
彼女の口からは途切れ途切れに甘い声が落ち、目が虚ろな色が帯びている。
 そういえば父親が『とりあえず痛くは無い』と言っていたな、と思い出す。胸の感覚を鋭敏にした分だけ、性的感度のレベルも強制的に上げたのだろう。
 子供を生んだわけではない女性からいきなり乳を採取するのだから、初めは痛いかもしれない。痛ければ人は本能的に筋肉がこわばる。緊張した状態では採れる量が減る。
 ―――なるほど、こういう細やかな差が研究者としての経験の差か、と思うと、面白くなくて舌打ちした。
「うっ」
白い軍服に包まれた彼女の体から、ようやく望みのものが出てきた。
 左手の指が、わずかに濡れている。
 蘭の体液がついた手を目の前に持ってきて、一応確認する。色は薄いが、人間の母乳に間違いない。
 机に置いていた器具を取り、すでに真っ赤になっている右胸に装着した。
 冷たい無機質の物の感触に、一瞬だけ正気づく。
 が、丸木戸がポンプを動かした途端すぐに虚ろな表情に戻った。
 器具の先端の吸盤に乳首をいれ、そこから繋がった手動ポンプが刺激を与え強制的に吸い出す。ガラス瓶に採取された母乳が溜まっていく。
「いぅ……うっ……うう」
苦痛とも快楽ともつかない声が時折教授の耳に入るが、彼の関心はいかに上手くそれを取り出すかという点に移っていて彼女の状態は少しも眼に入らなかった。
 強く速いペースで採ると一時はよく出ても、直ぐに出なくなる。
 一定の、安定した速度がいい。
 ―――ではどこまで早くできる?
 思ったとおりの出のよい加減がつかめると少し微笑むが、また新たな探究心が湧き上がって実験段階に逆戻りをする。試行錯誤を繰り返して右胸が出なくなると、次は左に胸に狙いを定めた。
 ……蘭の瞳から涙が途切れることはなかった。