・・・  連れてって 1  ・・・ 


 垂れ目のくせに妙に猛々しい光を放つ、いかにも骨のありそうな見慣れない子供が道場に入ってきたので―――
 好戦的な少年たちは誰からともなく竹刀を下ろしてその子を見つめた。
 道場とは剣を学ぶ場である。
 勿論礼儀その他のことも学ぶが、基本は剣だ。故にその場には二つの種類の人間しかいない。
 同胞か、敵か。
 その子はどちらかといえば、後者の雰囲気を漂わせていた。
 年のころは六つか七つか。ところどころ破れた、質素な着物を着ている。左手に木刀を持ち、誰かに声をかけるでもなくきょろきょろと道場を見回していた。そして、稽古をしている子供たちには一切注意を払わず、ずかずかと一直線に上座に向かう。
 珍しく指導の先生はまだ来ていなかった。
 剣道少年たちの間を通り抜けて、上座で再び顔をめぐらす。扉があれば勝手に開けて顔をつっこみ、外に出てはまた戻ってくる。うろちょろうろちょろと動くソレに、流石に、子供らの好奇心も限界を迎えた。
「お前、誰?」
その子が外に出て再び道場に上がったとき、そこには一人の少年が塞がるようにして立っていた。竹刀を下ろし、脅し半分に低い声で詰問調にたずねる。眼が爛々と輝いた。
 その声を合図に、他の子供たちも手を止めて集まってきた。
 ただの客や一般人ならばこんなことはしなかっただろう。しかしその子は明らかに異質で、『敵』の雰囲気を背負っている。彼らが警戒するのは当然の成り行きだ。
「……人に名乗る前にお前が名乗れ」
にやり、と唇を引き攣らせながら、相手は臆せず答える。
 名乗れ、といわれて、まず少年は竹刀を構えた。
 相手は周囲を瞳だけで見渡し、それから、木刀を構える。
 二人につられて、道場の少年たちも直ぐに後退しながら正眼構えを取る。

 やはり、こいつは敵だ。悪い奴だ―――

 先生も師匠も誰もいなかったのだが、彼らは慌てずにそう判断する。それは普段の厳しい稽古からついた素晴らしい精神力のお蔭だった。年上の子は前に出て幼い子を庇うように陣形をとる。
「俺は、新之助だ」
対峙していた少年が、ゆっくりと答えた。
「そうか。
 私は蘭という。
 新之助、お前の腕、見せてもらうぞ!」
言うが早いか、蘭は駆け出す。木刀は子供にはとても重いはずなのに、まるで自分の腕のように素早く振る。子供の動きではない。想定外の速さに少年はついていけない。
 防具の上から叩かれてもあまりの激痛に新之助は一瞬眩暈がした。
「だぁぁぁ―――」
「やぁぁぁ―――」
友人がやられそうだと見取って、他の少年たちもわらわらと加わる。
 かくして、道場は戦場に変わったのである。