毒丸に言わせたい一言   
01/07/2006



「てちお」

 ……………………言わせたく、ありませんか? なんかもう、特殊なツボすぎて説明というか弁明するのも難しいんですが、すみません、言わせたいんです(泣)。

 毒丸が、
「風邪引いたみたいで、声が出ない」
と朝起きて直ぐに言うんですよ。鉄男の腹の上で。
「この真夏の時期に、風邪か?」
「うん。
 本当にきちんとお前の名前を呼ぼうと頑張っているんだぜー。
 でも、どーしても、どぉぉおぉぉしても言えないんだ。てちお、って言っちゃう。
 だから今日は迷惑かけるけど宜しくー」
「……どことなくワザとめいているような気もするが……」
「俺を疑うのかよ。
 やーだね、そういうの、人として寂しいぜ」
どうみても元気そうなんですが、一応本当ならと心配した鉄男は自分の薬箱から簡易の風邪薬を探す。その様子が嬉しくて、背中に(いつものとおり)飛び乗って広い背中で頬を擦り擦り。


 そんな二人連れが、零武隊の入り口付近で激と現朗に遭遇。
「お二人さん今日も夫婦登庁かねー? お熱いね。ひゅーひゅー」
「そーゆーオメエも、いつものように鉄男に肩車してもらって来てんじゃねえのかよ。
 熱いとかのまえに、あんまり鉄男に迷惑かけんな」
「俺たちはいいんだよ。なー、てちおー」
「お前だけだろ、良い思いしてんのは」
激は混ぜっ返した後、あはははと朝から元気に笑う。
 現朗は鬱陶しそうに、毒丸を見上げます。
 激とのラブラブタイムを邪魔された怒りが視線にこめられて、その視線はビームくらいの強さがあればいいと思います。低血圧という触れ込みなので、現朗さんにとっては朝の時間は思いっきり激に甘えられるという素敵な時間なんです。

「おっはー。今日も絶好調だねー。ていけつあつ☆」

その男の意思を汲み取って、揶揄するように毒丸が笑う。鉄男は頭を下げても、上に乗る青年はびくともしません。
「朝から元気そうだな。お前は」
「そーみえる?
 だーけーど。違うんだなー、コレガっ」
「実は、今朝方から毒丸は風邪のようなので」
毒丸と、風邪という言葉が一瞬結びつかなかった金髪は、一瞬だけ眉間にしわが寄ります。
 鉄男は信用できる部下ですが、納得いかない。そして零武隊一といわれる優秀な頭脳は、ひとつの結論をはじき出します。

「仮病の間違いだろう。いちいち相手にしなくていいぞ、鉄男」

「酷っ! 躊躇しなかったでしょ、今」
「馬鹿は風邪引かないんだぜ。知ってるだろ?」
「それは激ちゃんのための格言じゃん。
 俺は繊細なの。
 だから、てちおのことてちおってしか言えないんだぜ。本当はてちおなんて言いたくなんだい。現朗ちゃんのことだってうちろーって言っちゃうしさ。うちろーちゃんなんて言ったら絶対怒るだろうけど、風邪だから不可抗力。仕方ないよ。
 風邪ってホント大変なんだから。
 もっと病人のことを労わって頂戴っ」
演説をした後、自慢げにふうっと大きく鼻息を出す。その青年に、二つのコールドアイが突き刺さっているのに、気づきません。
 ―――まあ勿論仮病なわけで。
 ―――そして今の発言で、仮病ということが完全にばれたわけで。
 鉄男の肩車に乗ったまま、上官二人に毒丸はぼこられればいいと思います。いつものことだと巨体はあきらめて、般若心経をそらんじています。


 仮病だったのに、本物の怪我人になって、保健室で鉄男に手当てされながら、
「ひでーよ。ひでーよっ。
 だってさ、可愛い冗談じゃん? な?
 てつおとか、うちろーちゃんとか呼んでみたいなーっていう幼い少年の夢があってさ、だからちょっと嘘吐いただけなのに殴るこたねーよっ!
 鉄男ぉぉぉ―――っ」
と駄々っ子状態。




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