・・・  毒と薬 2  ・・・ 


 「抱き癖、って言葉を、ご存知でしょうか」
鉄男の言葉に、蘭は押し黙る。
「くんなっ!」
「お前がだっ!」
彼女の布団の上で、二人の青年が取っ組み合いの戦闘を始めている。
 今夜は、珍しく、日明大佐が零武隊の独身寮に泊まることになった。風紀の乱れを正すために、年に一度上官が寮を監視するという特別な日なのだ。
 寮の空き室に寝泊りをすることになっていたのだが。
「茶羅、毒丸……」
『大佐っ』
四つの目が同時に向く。
 うっ、と、蘭は喉の奥で呻いた。
 後ろからは鉄男の痛い視線を感じている。
 感じている、のに。

 この目に弱いのだ。

「……寝る、か」
『はいっ』
二人は元気よく返事をして、布団に入った。
 後ろを向くと、鉄男が額に手を当てて溜息をついている。
 いい加減この習慣を止めないといけない、とつい今しがたまで口を酸っぱくして進言していたのだ。毒丸も茶羅も、軍人にしては若いが、もう少年という年ではないのだから。
 だが、そうはいっても。甘えてくれる期間は短いのだから少しくらい良いじゃないか。
 蘭はこっそりと胸中言い訳を呟く。成長してくれるのは親として嬉しい反面、独り立ちしてしまうのは少し寂しい。布団に入れば、左右から伸びた四本の腕が絡みつく。
「おやすみなさい、大佐!」
「おやすみなさいです。大佐!」
「……ああ、おやすみ。
 良い夢を見るんだぞ」
『はいっ』
来年は止めよう、と心に誓いながらも。
 この心地のよさについつい浸ってしまうのであった。