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「抱き癖、って言葉を、ご存知でしょうか」 鉄男の言葉に、蘭は押し黙る。 「くんなっ!」 「お前がだっ!」 彼女の布団の上で、二人の青年が取っ組み合いの戦闘を始めている。 今夜は、珍しく、日明大佐が零武隊の独身寮に泊まることになった。風紀の乱れを正すために、年に一度上官が寮を監視するという特別な日なのだ。 寮の空き室に寝泊りをすることになっていたのだが。 「茶羅、毒丸……」 『大佐っ』 四つの目が同時に向く。 うっ、と、蘭は喉の奥で呻いた。 後ろからは鉄男の痛い視線を感じている。 感じている、のに。 この目に弱いのだ。 「……寝る、か」 『はいっ』 二人は元気よく返事をして、布団に入った。 後ろを向くと、鉄男が額に手を当てて溜息をついている。 いい加減この習慣を止めないといけない、とつい今しがたまで口を酸っぱくして進言していたのだ。毒丸も茶羅も、軍人にしては若いが、もう少年という年ではないのだから。 だが、そうはいっても。甘えてくれる期間は短いのだから少しくらい良いじゃないか。 蘭はこっそりと胸中言い訳を呟く。成長してくれるのは親として嬉しい反面、独り立ちしてしまうのは少し寂しい。布団に入れば、左右から伸びた四本の腕が絡みつく。 「おやすみなさい、大佐!」 「おやすみなさいです。大佐!」 「……ああ、おやすみ。 良い夢を見るんだぞ」 『はいっ』 来年は止めよう、と心に誓いながらも。 この心地のよさについつい浸ってしまうのであった。 |
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