* 桜の下 *






 「花より団子」
「わいは花より坊ちゃまですぅ」
「……団子を食いながら言う台詞ではないな」
四人は桜の木下で、赤い敷物をひいて団子を食べていた。もはや恒例となった花見。重箱に団子を詰めて、甘酒をたっぷり持って来た。
「ふん。
 天馬様って人には文句をおっしゃるわりにご自身はおっしゃってくださいませんわね。私にこの花と比べてほめてくださいまし」

「みんなの前で、しょうがないなぁ。
 菊理、愛しているよ」

 ………………。

「どわぁぁぁっ。いつの間にか一升瓶三本にいれておった甘酒きえとるわぁぁっ」
「いつの間だっ。いつの間っ!?」
「天馬様ぁぁ―――っ。正気に戻って下さいまし」

  四人は仲良し。天馬は酒に強いけれど弱い設定。




* 月夜     3巻 − 88頁より *






 魔王寺にて。
「飛天坊さま、お食事ですよ
飛天は固まった。
 そこにはあり得ないほどすばらしい料理が広がっていた。
 少し味見をしたが、旨い。

 う……旨すぎる。

 帝月と、掃除を終えた瑠璃男がふうやれやれといいながら場所に座った。
『いただきます』
飛天はあわせて箸を取る。
「ふむ。いつもより味が薄いな」
「まあ味噌が違うからなぁ。だがやはり山菜は味わい深くていいものが取れたぞ。瑠璃男、鶏(長鳴鳥)はどうだ?」
「ま。そこそこや。
 たまには鍋も食いたいなぁ」
「それは明日だな。今日は時間がなかったから有り合わせだ。
 すまん」

 これでありあわせの材料かっ!?
 いやまてよ。色々なかったものが出ているよ。
 とくに鶏がなんであるッ!?

 翌日。

 天馬たち三人が異形のものに襲われていたのを見て、飛天は正直血の気が引いた。
 俺の飯がぁぁっ!
 怒りに任せて棒を振るうと、案外簡単に刺さった。弱かった。
「飛天坊殿っつ!」
天馬が駆け寄ってくる。

「うぉらぁ―――
 オメーらっつ!!
 晩飯の用意もせずに何ほっつき歩いてんだ―――っつ!
 おじさんはお腹空いたぞっつ!」


  あれはすばらしい台詞です。飛天は餌付けできますよ。




* 紅い糸     2巻 − 46頁より *






 コマとコマの間にはきっとこんな小話がある。

 「日明大佐…
 今身に付けてあるもの以外で佐次吉の遺品は何かありますか」
「遺品? 何かあるか?」
「さあ…
 佐次吉の村は大佐の命令で燃やしちゃってますからねぇ。
 ぜーんぶ灰ですよ」

ばこっ

「…………丸木戸君はどうやら本気で死にたいらしい」
「……本気で殺してますが。大佐」
「……眉間に一撃だよ……」


  あんな暴言を吐いてて教授が死なないわけがない。




* 源平 *






 「瑠璃男さんは幼少のころからカミヨミの姫様にお使えしているんですか?」
「まあな。
 わいは昔っからぼっちゃ……じゃない、姫さんの一番の番犬や」
「すごいなぁ。使用人の鏡ですね。そういう気概のある態度、尊敬しますよ。
 僕なんか、駄目駄目で……」
ん? とつり目の少年は不思議そうに首を傾げた。
 江崎―――平良婦人の使用人―――は、傍目に見てもよすぎるくらいの使用人だ。
 なぜなら、狂った主人の行動を止めもず、警察に通報もせず、むしろ馬鹿正直に命令のままに一人で東京までやって来て、カミヨミをつれてくるという大きな使命を果たしたのだ。
 そのひとつだけでも十分に褒められるべきものである。
「江崎さんかて、いい家隷やて」

「あははは。まあ、表面的な仕事の面では、一応できますけれど。
 実の話、僕は人間の従者になるのって初めてなんですよ。今まではずっと神剣やってたんで、崇め奉られたり奉納されたりするのが普通だったから。精神的にどーも落ち着かなくて。
 ほら人気アイドルが人気落ちて人から忘れられて干されていじめられもしなくなって名前聞いても『あ昔流行った人ね?』みたいに言われて傷つきながら別のアイドルのお付になる時の惨めかつ波乱万丈の人生ってあるじゃないですか。いやまさにそれ。
 昔はいい暮らしだったんですよ。
 ごろっと横になって、たまに国づくりして、ついでに誰かの脳をのっとっているだけ。退屈だったけれど満たされていた。時折、『今じゃあんなヒス女に使われる日々かよぉ』と考えると凄い凹んじゃうんです。いや使用人だって確かに張り合いある仕事なんですよ。それはわかっているんですよ。でもどこか納得できないんです。
 空を見上げるとふと思っちゃうんですよねー。
 『……このままでいいのかな、自分……日輪どこにいるんだお前は……』って。感傷的になると脆いですよ。あはははは。
 だからホント、使用人なのにあんなに張り合い持ちながら仕事できる瑠璃男君が羨ましくて羨ましくて」

「坊ちゃまぁぁぁぁぁぁぁぁ―――
   助けてやぁぁぁぁぁぁぁぁ―――(泣)」
「お前は会ったときから(以下略)なるほど、お前が神剣そのものだったのかっ! いくぞ、天馬っ、瑠璃男っ」
「おうっ」

 ――― カミヨミ 一巻で終。 ―――


  江崎さん殺人犯人のくせに話しすぎ。
 江崎=神剣(月輪)=平家? と瑠璃男=源氏? の会話のつもり。……無理あるのはわかってます。わかってますので。





* ヨミ師 *






 全国ヨミ師協会定例会―――
「はい。
 それでは、ヨミ師の日は 四月三日 に決まりました。
 ほかに意見のある方はおりますか?」
「待て、愚民ども!
 今日は六月十五日。となると、後、まるまる一年待たなければならぬっ。
 お前らははそれで我慢できるのかッ!?」


 ********

「はい。それでは満場一致で、ヨミ師の日は 七月四日に決まりました。
 皆様拍手をお願いします」


   ヨミ=4と3=4+3=7 と、師=4。どうみても4月3日のほうが無難ですが、坊ちゃまの一言には合理性を超えた説得力があります。元ねたは「殺し屋さん」から